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研究会報告書等 No.29

「健康と経済社会的属性との関係に関する調査研究報告書」の概要


平成19年10月
内閣府経済社会総合研究所

  1. 研究の趣旨

       健康を取り巻く主要な経済社会的属性との関わりを確認し、予防的行動が健康だけではなく、経済社会活動に対しても重要な意味を持つことを検証するとともに、政府が健康増進政策を推進する上で、その時々の経済社会状況を考慮することの必要性についても示唆を得ることを目的として本研究を行った。
       具体的には、健康と経済社会的変数(属性)との関係に焦点を当て、その一般的な因果関係をマクロ的変数、個票データにより確認した。また、近年、生活習慣、予防行動が健康に及ぼす影響について関心が高まっていることを踏まえ、疾病・健康行動から健康度への影響、健康度から経済社会活動(特に就労、地域・ボランティア活動)への影響について分析・検討を行った。
       本調査においては、個票データの入手可能性から65歳以上の高齢者を対象とした日本大学「健康と生活に関する調査」(平成11年、平成13年調査)のデータを使用しており、より広い時期、年齢層を対象とした分析は今後の課題として残っている点に留意が必要である。
       なお、本研究は国立大学法人京都大学への委託研究として実施したものである。

  2. 報告書の概要

    第I章  健康と経済社会的変数とのマクロ的相関

    1. 国民生活基礎調査により近年の日本人の健康度をみると、平成10年から13年にかけ男女ともほぼ全ての年齢層(注:5歳階級刻み)で低下し、特に高年齢層で変化の程度が大きくなっている。
    2. 既存研究、理論モデル等によると、予防的行動等の健康への影響は長期である一方で、健康度の悪化は比較的短期間に多くの活動に影響を及ぼす。

    第II章  健康と経済社会的変数とのマクロ的相関

    1. 健康度変化と就労との関係では健康度の悪化が就労から非就労への変化を伴う可能性が高い。収入の増減別に健康度と就労との関係をみると、収入の増減とかかわりなく、就労との関係が捕捉されることから健康度は就労の影響をより強く受けると考えられる。
    2. 就労と健康度との関わりでは、健康度の高い人が就労(継続)している関係が示される一方、就労していることで健康度がさらに改善するとは限らず個人差が大きい。
    3. 収入と健康度の変化との間に関係にも正の相関がある。65歳以上の年齢層では非就労の割合が高く年金等の非就労収入が収入全体に大きく影響すると思われるが、年金等収入と健康度との関係では健康度から年金収入への影響は考えにくいため収入(等価年収)から健康度への影響が計測されたと推測される。
    4. 収入水準別にグループ分けした上で収入と健康度についてみると、グループ内(絶対水準)では有意でなく、健康度は大きな収入水準のカテゴリーと相関している可能性が示唆される。
    5. 生活習慣等ライフスタイルの影響については時系列的な健康度の変化との平仄から強くは支持されないが、例えば予防的行動の高まりと合わせると有力と考えられる。スポーツ時間、散歩時間等は健康度と相関しており、定期的なスポーツ等の予防的行動が健康度の改善に影響する可能性も示唆される。

    第III章  健康度と保健医療行動との関わり

    1. 健康増進行動である「1週間の歩行日数」「1日の歩行時間」「1週間の運動回数」は、通院治療率、直近2週間に床についた確率(2値の健康指標)をそれぞれ有意に低下させる。
    2. 脳血管障害、認知症である場合主観的健康度は有意に低くなる。

    第IV章  高齢者の健康度と就労

    1. ミクロデータを用いて、健康状態が就業に与える影響についてみると、健康度の悪化は明確に就労の妨げとなっている。
    2. 一方、健康度の改善が就労を促すか否かは就業形態により異なり、パートタイムや農林漁業などの時間的制約が少ない就業形態においては、健康状態が改善しても、必ずしもその就業形態での就労を促進するとの結果は得られなかった。
    3. 健康状態の改善は就労活動をはじめとした経済活動の促進にもつながる可能性があり、高齢者が働きやすい労働環境の整備や、健康水準を保ち生産性を落とさないようにするための健康増進・維持のための予防政策が有用と考えられる。

    第V章  健康度と地域活動、ソーシャル・キャピタルとの関わり

    1. 都道府県別データを用いて、主観的健康度の変化と地域活動数の変化の相関をみたところ、男性の場合はこれらが正の相関を持つ。
    2. ソーシャル・キャピタルの変化と主観的健康度の変化の相関をみたところ、男性の場合はこれらが正の相関を持つ。
    3. ソーシャル・キャピタルの変化と地域活動数の変化の相関をみたところ、男女ともこれらが正の相関を持つ。
    4. 最後に、個票データを用いて、地域活動数、ボランティア活動への参加の有無、シルバー人材センターへの参加の有無を被説明変数とし、主観的健康度、地域のソーシャル・キャピタル変数のほか、性別や年齢等コントロール変数を説明変数とした推計を行った。その結果、概ね主観的健康度とソーシャル・キャピタルの増大が、地域活動数の増加をもたらし、ボランティアやシルバー人材センターへの参加確率を高めることが分かった。

    第VI章 健康度変化の要因とその影響、健康増進施策の重要性

    1. 今回分析に用いた平成11年、平成13年のデータからは、健康度が就労状態や収入と有意な関係にあることが示唆された。このことからも、健康度を全体として改善するものとして健康・予防行動が重要と考えられる。
    2. 国民が一体となった健康増進施策として、効率的な運動推進、生活習慣の改善等を内容とする「健康日本21」が策定されているが、今後は目標値の達成状況の確認、効果等について定期的に評価していくことが有用と思われる。また、健康・予防構造が健康度、さらには経済社会活動に影響するとの視点から健康増進施策のさらなる推進が望まれる。

以上




本調査についての詳しい内容は下記をクリックしてください。
報告書本文1(PDF-Format, 416KB)報告書本文2(PDF-Format, 396KB)報告書本文3(PDF-Format, 324KB)
 
本研究調査は、内閣府経済社会総合研究所が国立大学法人 京都大学に委託したものである。