「世帯構造の変化が私的介護に及ぼす影響等に関する研究報告書」の概要

1. 研究の趣旨

      介護を受ける側ができれば家族による介護を希望していること、介護サービスの供給面でも介護を担う人材の不足、財政的制約等の制約にいずれ直面すると予想されることを踏まえると、今後介護保険サービスの利用がさらに高まったとしても、家族による在宅介護に対するニーズがなくなるとは考えられない。このため、増大する介護ニーズを、公的な介護サービスと家族による家族介護とでどのように担っていくかについては、今後公的な介護サービスのあり方にも大きく影響する重要な論点であると考えられる。
      本研究は、家族介護に焦点を当て、その需給に大きく影響する要因を探ることを目的に実施した。具体的には、高齢者を対象としたアンケート調査の個票を用いて、1)世代間の同居、別居の選択に影響する要因、2)介護形態（家族、訪問、施設）の選択に影響する要因、3)高齢者が誰に介護をしてもらいたいと考えているかという介護需要、4)子ども世代による介護供給の決定要因について分析した。また、家族による介護が一般的と考えられるアジア諸国のうち、韓国について同様の分析を行い、その結果を比較検討した。
      なお、本研究は国立大学法人京都大学への委託研究として実施したものである。
   
   

2. 報告書の構成と概要

   第I章  研究の趣旨

   • 本研究の問題意識について説明するとともに、分析に用いた「健康と生活に関する調査」のデータについて解説した。
   • また、データの集計結果により、比較的軽度の介護度に多くの介護認定者が分布していること、よその人が家に入ってくる介護サービスに対し、知らない人に気をつかうといった心理的な抵抗感を持つ人が35〜40％程度存在することを確認した。
   
   

   第II章  先行研究

   • 親と子供の同居・別居の決定要因、要介護者の発生が家族の就労に与える影響、子どもによる介護供給の決定要因、公的介護サービスに対する需要分析、介護負担感に関する先行研究に関してサーベイを行った。

   第III章  同居・別居と介護形態選択

   • 2003年のデータでは、他の期間のデータに比して訪問介護、施設介護の選択確率が高まっており、介護保険制度の浸透の影響が伺える結果となっている。
   • 親子間の同居行動については、配偶者の存在する場合にはまず配偶者に期待する傾向がある。また、子どもの数が多い、健康度が低いといった要因に加え、所得が少ない、持ち家といった経済的な要因も有意に同居の確率を高める。
   • 介護サービスの選択に関しては、介護サービスの選択をみると、施設介護については介護度の高い人が多く、逆に家族介護については介護度の低い人が多く、介護保険制度の当初の目的に沿った形で介護度に応じたサービスの選択が行われているといえる。また、訪問介護、施設介護に対する心理的な抵抗感がある場合には家族による介護が選択されやすい傾向がある。

   第IV章  家族介護の需要と供給

   • 親の世代による介護期待や子ども世代による介護供給については、親子間で同居ないし近くに住んでいることにより有意に高まる。また、家が広い場合には嫁やホームヘルパーへの期待を高める傾向がある。
   • 遺産については、親の世代が子どもに介護を期待する場合には子どもに財産を残そうとし、また、子どもの世代においても親からの金銭的援助を受けている場合に親への介護供給が高くなる傾向があり、遺産が家族介護に有意に作用している。
   • 一方で、介護供給が就労を抑制するかどうかについては、有意な関係が見いだせなかった。介護保険導入後においても子どもの介護供給においても性別要因（女性であること）が強く作用しており、主たる家族介護の主たる担い手である娘、嫁が元々非就労であるために介護供給による就業の機会費用逸失効果がさほど大きくなかった可能性もある。

   第V章  韓国の介護と家族の役割

   • 親族による介護が一般的であり、人口高齢化の進展が著しいといった点で日本と共通点の多い韓国について、同居選択、介護供給の分析を行ったところ、日本とほぼ同様の結果を得た。ただし、金銭援助の有無が介護供給に与える影響が非有意となるなど、経済面より儒教的文化の影響が介護に影響していることを伺わせる結果もみられた。

   第VI章  まとめと今後の方向性

   • これまでの分析結果を総括するとともに、家族介護の促進のためとりうる政策的な視点として、1)同居・近住の促進、2)介護休業の取得促進、3)相続、贈与等の経済的なインセンティブの活用、4)予防・健康増進行動の促進、5)介護に関する情報の提供・共有、の5点を指摘した。